「待って!ちゃんと話をしよう」



愛里紗はこれ以上逃げれない思って、走らせていた足を観念してスピードを落とす。



「愛里紗」

「もう私の名前を呼ばないで」


「咲ちゃんと別れたのはお前のせいじゃない!これ以上恋人としてやっていけなかったから別れたんだ」

「ダメ…。翔くんの話は聞けない。……知ってると思うけど、咲は私の親友なの」


「気持ちが傾かない恋愛に意味がないと思った。それは、バイト先で愛里紗と再会する前から感じていた」

「嫌…。もう、これ以上私に何も言わないで。お願い…」



愛里紗はそう言って、長い髪をすだれのようにして顔を俯かせた。



噛み締めた唇は血が滲みそうなくらいに痛くて。
両目から溢れ出る涙で頭がガンガンしてきて。
鼻水をすすったら奥がツンと痛くなった。



翔くんを嫌いになるのが正解への近道だ。
私を嫌いになるくらい冷たく突き放して、別々の未来を歩んでいかないといけない…。


だって、私には翔くんとの未来なんて用意されていないのだから。