ーー右でもなく左でもなく中央でもない。


私は宙ぶらりんな気持ちに嫌気がさしていた。
5分後の自分に自信がなかったから一刻も早く立ち去りたかったのに。

彼のひとことを受け取った私は……。



ドクッ…



まるでハンマーで叩きつけるかのような強い鼓動に襲われた。

すると、固く覆っていた殻が割れてしまったかのように、虹色の記憶が溢れ返ってくる。



不意に引き離された時間。
手紙が届かなかった時間。
会えなかった時間。
恋焦がれた時間。
すれ違った時間。


そこには、離れていた約五年分の想いが刻み込まれていた。





彼の手は、小学生の頃に寒くて身を震わせていた私の右手を彼のコートのポケットの中でつないだあの時よりもずっとずっと大きくて。
力強くて。
暖かくて。


小さなポケットの中の大きな平和。
繋いだ手は胸いっぱいで幸せに満ち溢れていたから、五年経った今でもしっかり覚えてる。