『未来を切り拓くのも、幸せの価値を見いだすのも、結局は自分次第なんだよ』
翔は愛里紗との縁が切れかかった瞬間、先日数年ぶりに姿を現した父親の話が走馬灯のように脳裏を過ぎっていくと、翔の左手に光と勇気を与えた。
あの時、父さんは言ってた。
『お前の気持ちが後ろ向きだったら、見ようとしていたものは更に見えなくなる』
『もし、その恋に諦めがつかないのなら本気でぶつかってみたらどうかな』
父さんは俺が傷つかないように。
自分みたいに後悔する人生を送らないように。
前を向いて歩んでいけるように、誰よりも心強い応援の言葉を残してくれた。
俺は彼女と再会してからまだ何も始まってないし、本気でぶつかってもいない。
それなのに、返答一つで今後の道筋を決めつけている。
『お前には父さんみたいに後悔する人生を送って欲しくない』
後悔する人生なんて送りたくない。
でも、今のままじゃ一生後悔する。
自分は彼女からの手紙を待ち続けていたあの頃から、何一つ進歩していない。
だから、俺は生まれ変わる為に今までの自分を捨てた。
「忘れられないんだ」
「えっ……」
「ずっとお前の事が忘れられないんだ…」
俺は父さんからもらった勇気を左手に託した。
いまこの瞬間に新たなる第一歩を踏み出す為に。