担任から住所を聞いて、家で昼食を済ませてから彼の家へと向かった。

住所が書いてある紙を片手に、荷物を持ちながらキョロキョロと目印を追う。
すると、彼の住んでいるアパートは案外早く見つかってホッと胸を撫で下ろした。




そこは、築三十年くらいは経ってると思われる、二階建ての古びたアパート。
コンクリートの隙間からは雑草が生えているし、住人の私物と思われる荷物が敷地内の隅に山積みされている。


敷地内に足を踏み入れると、二階の通路で日差しが遮られて影になっている一階の一室のドアの前にうずくまっている彼の姿が見えた。



彼は体育座りをして膝の間に顔をうずめている。
徐々に距離を縮めて歩く私の存在に気付く様子もない。

だから、声をかけた。



「谷崎くん。今日はどうして学校を休んだの?」



愛里紗は翔の元にしゃがみ込み、うずくまってる顔を覗き込もうとして顔を傾けた。
翔は少し顔を上げると泣き腫らしたような赤い目のまま小さく呟く。



「………昨日、久しぶりに父さんが家に帰って来た」

「えっ…」


「俺の父さん、いま一緒に暮らしてない」



愛里紗は翔の家庭事情を知っているが、敢えて知らないフリをして小さくウンと頷いた。



「父さんが久しぶりに帰って来たと思ったら、また母さんとケンカして…。うちの両親はもうダメかもしれない」



大人の事情に振り回されて深く傷を負い小刻みに震え泣く翔に、愛里紗は気の利いた言葉が思い浮かばない。
ただ、翔の手の上に自分の手を重ねる事しか出来なかった。