心の天気はにわか雨。
冷めきったカフェラテに沈黙の時間。
そして、自分を戒めている私と、目線を落としている彼。
傍から見ると別れ話中の恋人のよう。
でも、今はそれに近い状況に。
既に歩むべき道は決まっているのに、彼は何度も行く手を阻んでくる。
だから、余裕と自信が無くなってくる。
「ゴメン。もう行くね」
愛里紗はか細い声でそう言うと、隣の席に置いていた荷物とコートとマフラーを手早く一つにまとめて帰り支度をした。
今の幸せを壊したくないから、彼の元から去るのが賢明だと思った。
またいつ理性を失ってしまうかわからないし、安全圏に居留まりたい。
もう、誰一人傷付けたくないから。
愛里紗は勢いよく席を立って出口を目指した。
ところが……。
「待って!」
翔はすかさずテーブル脇を通過中の愛里紗の右手を握りしめて足を引き止めた。