「愛里紗、……いま幸せ?」
翔はそう言って切実な目を向けた。
愛里紗は唐突な質問に戸惑いを見せたが、小さく頭を頷かせる。
「…うん。幸せだよ」
ゆっくりとした口調でそう言うと、気持ちを落ち着かせるようにカフェラテを一口ゴクリと飲んだ。
翔くんは、いまどんな意味で幸せかどうかを聞いたんだろう。
もし幸せじゃないと答えたら、一体どんな返事を……。
店内のBGMは耳に届いて来ない。
ただ、重苦しい空気に互いの口だけが塞がれている。
本人の口から幸せだと聞いて深いショックを受ける翔に。
幸せかという質問に心がざわつき始めた愛里紗。
翔は心に距離を感じると、既に用意していた返答を重苦しい口調で答えた。
「……そっか、急に会いに来て悪かったな。今までも今この瞬間も」
「そんな事ない。…私、久しぶりに翔くんに会えて嬉しかったよ。会いに来てくれてありがとう」
「愛里紗の口から幸せかどうか聞きたかったから」
翔はそう言って深いため息を漏らす。
一方の愛里紗はキュッと口を固結びする。
きっと、これが正解。
私には理玖も咲もいる。
二人とも宝物のように大切で無くてはならない存在。
でも、いまはっきり『幸せ』と伝えたから、翔くんとの縁はこれで終わりなのかな。
私達が会うのは今日で最後になるのかな。
これから、また翔くんと再会する前みたいな日々を過ごすのかな。
もう、二度と会えないのかな……。
そう思った途端、目の前にシャッターが下りたかのような気分に。