カップかららせん状の湯気が消えた今。
カフェラテの減り具合が悪い上に、居どころも悪い。



でも、悪いのはそれだけじゃない。


頭の回転が悪い。
歯切れが悪い。
わざと咲の名前を挙げる自分も悪い。

彼が遥々会いに来てくれたのに、今の自分は色んな意味で都合が悪い。



翔くんはいつも突然現われるから、心の準備をさせてくれない。



一方の翔は、愛里紗と向き合うタイミングを見計らっていた。

今日という日を迎えるまで毎日のように話を切り出すイメージを膨らませていたが、いざ本人を目の当たりにすると、思うように言葉が出てこない。


ただ、もどかしい時間ばかりが過ぎて行く。



翔がしきりに気にしているのは、愛里紗の二者択一の答え。

不安が付きまとう原因は、前回この街に来た時に愛里紗が理玖と幸せそうに笑顔を向けていたから。


でも、イタリアンレストランや、神社や、前回この街に来た時や、今この瞬間に偶然会えた事に運命を感じると、予想外の回答に結びつく可能性も無きにしも(あら)ずと思い、意を決した。