翔は穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。
「こうやって落ち着いて話すのは随分久しぶりだな。…元気だった?」
「…うん。翔くんは?」
「元気だったよ」
「おばさんは元気?」
「相変わらずね」
彼の変わらない口調と私に充てる眼差しは、幸せに満ちていた当時と変わらない。
今日も差し支えのない会話ですら脈が上がる。
数ヶ月前はこんな日が来ると思わなかった。
翔くんと再会したら話したい事が沢山あったはずなのに、立ちはだかる障害数の方が上回っていたせいか、次の言葉が浮かんでこない。
「実は夏休みに野口と街で会ったんだ。愛里紗と同じ高校に通ってるんだってね」
「うん。でも、今は違うクラスだからなかなか話すチャンスがなくて」
「もしかして、俺に会った事を聞いてたの?」
「ううん、ノグからは何も。それよりビックリしたよ。翔くんが咲の彼氏だったなんて……」
「……」
理玖から貰ったネックレスが少し苦しく感じたから、咲の名前を出して予防線を張った。
本当はこんな卑怯な言い方はしたくない。
でも、こうやって予防線を張っておかないと、数分後の自分に自信がなくなるから。