「いま話す時間はあるかな?」



約二ヶ月ぶりに目の前に姿を現した翔くん。

私が暮らす街の改札付近で、明日理玖に渡すバレンタインのラッピング材料が入っているレジ袋を持っている左腕を掴んだ。



彼は他の用事ついでに見かけて声をかけてきた感じではない。
そう思ったのは、心を見透かしそうなくらい真っ直ぐな瞳で見つめてきたから。

だから、あまりの急展開に酷く驚いた。





彼の傍にいるだけでも懐かしい香りが漂ってくる。
昔からずっと変わらない優しい香りが…。

私は香りに誘導されるように黙ってコクンと頷いた。





本当はこれが正解じゃない。
翔くんと接触すること自体、理玖や咲への裏切り行為なのだから。

…でも、何故か首を横に振る事が出来なかった。



それから私は、彼の背中に並んで話し合いの場所を移した。