ーー時は、愛里紗が駅に到着する前に遡る。



愛里紗が暮らす街に到着したばかりの翔。
父親からのプレゼントの腕時計に目を向けると、時計の針は17時18分を指していた。
下校後、直に向かってもこんな時間に。

前回この地を訪れた時の時刻は16時45分。
その時と比べると、今は30分以上も遅い到着になる。




この時間だと、愛里紗は帰宅してるかもしれないし、奴と会ってる可能性もある。
昔、何度か愛里紗の家にお邪魔した事があるから、記憶を頼りに家に向かって会う手段もある。

でも、急に家に訪問するのも気が引けていた。



翔は、はやる気持ちを抑えて駅に止まる事に決めた。






通勤、通学と思われる足は、時間と共に増え始め、無気力な表情と不揃いな音を立てて早々と目の前を通り過ぎて行く。

その中の人混みの中に紛れている翔は、行き違いがないように目を凝らしながら愛里紗の姿を探していた。




今から1時間…。
駅で1時間待っても会えなければ、今日は諦めてまた後日にしよう。


本当は今日中に会いたい。
会って愛里紗に聞きたい事がある。

空白だった時間に色が塗り重ねられ始めてから、ずっと本人の口から聞きたかったんだ。


万が一、それを聞く事が出来たら、今すぐにでも彷徨う気持ちに終止符を打って、今後のあり方について考えていきたいから。