それから、マフィン専用の小さな箱に完成したチョコレートマフィンを二つ詰め込んで小さな紙袋に入れて理玖に渡した。
…って言うか。
渡したというより、実は奪われたが正解。
一度目のバレンタインのあの日。
学校から理玖と一緒に帰っていた私は、並んで歩いていた足を止めて理玖の背中に向かって言った。
「…今日バレンタインだから」
と言って、カバンの中からマフィンボックスの入った紙袋を持ち上げると。
バレンタイン当日だと認識していた彼は、待ってましたと言わんばかりの鋭い眼光を放って、まだカバンから半分も覗かせていない紙袋を勢いよく奪った。
「あっ……」
「サンキュー!これ、俺のチョコだよね?愛里紗が俺の為に作ってくれたの?超嬉しい!」
「あっ…あ、うん」
「じゃあ、いま食っちゃおーっと。賞味期限短いんだろ?」
「焼き菓子だし、そこまで短くないって」
「手作りは一分一秒でも出来立てがいいんだよね~」
理玖はマフィンの箱をガサツに開けたと同時に吸い付くように目が止まる。
マフィンを手に取ると、首を傾けて不思議そうにかざした。