教卓前に足を運ばせた担任に、クラスメイトが騒動の事情について事細かに説明する。
すると、それまで凍りついていた教室内は一旦落ち着きを取り戻した。


生徒達がパラパラと着席している間、担任は職員室から持って来たスリッパを愛里紗に渡した。
愛里紗は脱いだ上履きを翔に返すと感謝の言葉を告げた。



「あのっ…、ありがとう」



本当は感謝の言葉以上の気持ちが胸に響かせている。
谷崎くんの正義感は、奈落の底に突き落とされた私の心を救い出してくれた。

一方の翔は、犯人が見つからなかったせいか、納得のいかない様子で無愛想に愛里紗から上履きを受け取る。





五時間目はたまたま道徳の授業だった。
テーマは私の上履きが紛失した件について。

この事件に関して、生徒達からは様々な意見が寄せられた。
上履きが隠された以外にも、自分でどこかに置き忘れたとか、他の人が間違えて履いてしまっているとか。


当然、上履きを隠した犯人が最後まで名乗り出る事は無く、当人の私には悔しくて煮え切らない一日となった。





ーーでも、翌日。

無くなっていたはずの上履きが何事もなかったかのように下駄箱内にキレイに収まっている。

やりきれない気持ちに包まれると、ただ虚しくて耐えきる外なかった。