一方、長階段から離れて自宅に戻ったばかりの理玖は、背中からドサッとベッドに寝そべり、額に右手の甲を当ててやり場のない深い苦しみを味わっていた。

中学生の頃から最も恐れていた人物の翔が忽然と姿を現した事によって、古傷が痛みを増していく。





クッソ……。
何だよ、あいつ。
今更姿を現してんじゃねぇよ。


俺は生半可な気持ちで愛里紗に接してきた訳じゃない。
中学ん時から、一途に想い続けて今日まで毎日大切にしてきた。


愛里紗を大切に思ってるのはお前だけじゃない。
再会後から慎重に育んできた幸せを、あっさり壊しに来るんじゃねぇよ。



お前に愛里紗を奪われたら。
愛里紗の気がお前に向いたら。
俺の手元には何も残らなくなる…。

だから、お前にだけは絶対譲れない。




理玖はギュッと布団を握り締めながら、やり場のない怒りでもがき苦しんでいた。



空白の時間が闇色に染まっていったのは翔だけでなくて、忽然と姿を現した翔に心を痛めつけられていた理玖も闇色に染まり出していた。