でも、思い過ごしの可能性もある。

そう思ったのは、先ほどマフラーを引かれながら歩いてる時に、後ろからしきりに呼び止めていた三人組の呼び名を思い出したから。
その呼び名とは、とても可愛らしくて印象的だった。

だから、気持ちが先走るあまりに後者を選択してしまう事に。



「さっき、あんたは女子にクルちゃんって呼ばれてたけど、名前は来栖とか久留米なの?聞き覚えはない名前だけど、愛里紗とはどーゆー関係なの?」

「……は?お前がクル(狂)ちゃんだろ?」



翔は怖い顔で即答する。

だが、先ほどまで女子に『クルちゃん』と呼ばれていた男に、すかさず『お前がクルちゃんだろ』と言われても思い当たる節がない。



「…え、俺がクルちゃん?…名字は橋本だけど」

「胸に手を当てて考えてみろ」



噛み合わない会話で何故か半怒りで身体を震わせる翔。
頭に『?』マークが並ぶ理玖は、言われるがまま胸に手を当ててクルちゃんの意味を考えてみた。

だが、思い当たる節がない。



「やべぇ……。俺、冗談抜きであんたの言ってる意味が分かんねぇ」

「クルちゃんは俺じゃない!断言出来る。お前は自分の言動を思い返せ!」



翔は先程の理玖の言動を指摘していたつもりだったが、若干言葉足らずに。
お陰で理玖には理解不能で、胸に手を当てても何も思い浮かんで来ない。

行き違いな会話はまるでコントに。
残念ながら、話は徐行運転になった。