怒りをあらわにして拳を震わせている翔の背中の方からは、三人組の声が響き渡っている。



「クルちゃん待ってー」

「クルちゃん、ウチらの事を忘れてるよ~」

「まだ、制服の第二ボタンもらってないよー」



だが、理玖の事で頭がいっぱいになっている翔の耳に声は届くはずもない。





翔は秘めた想いよりも愛里紗の幸せを優先に考えて、若干嫌な思いをした先日から何度も自分を宥めながら我慢に我慢を重ねて凌いでいたけど…。

女子を弄ぶような理玖の言動に限界を迎えると、堪忍袋の緒が切れた。



一心不乱に肩で風を切って足を進ませていた翔の足は、女子集団に囲まれている理玖の前で止まって行く手を塞ぐ。

それまでは何の障害もなく女子の集団と平和に過ごしていた理玖だったが、いきなり物凄い剣幕で目の前に立ちはだかった翔の姿を視界に捉えた頃には、力強く胸ぐらを掴まれていた。