俺は彼女達の策略にまんまとハマってしまった。

それは、まるで蟻地獄。
一旦罠にハマってしまったら、なかなか逃げ出すことが出来ない。



呼びかけを疑問に思うんじゃなかった。
放っておけば良かった。
俺はこいつらの問いかけに一切無視し続けていれば、嫌な目に遭わなかったのに。



クルちゃんが嫌なら名前を教えろって言われても……。
俺から名前を聞き出して、どんなメリットがあるんだ。


ただですら、理玖という男探しで忙しくて、こいつらに構ってる暇はないのに…。
俺らが下らない話を言い合ってる隙に奴が帰ってしまったら、一体どう責任を取ってくれるんだ。



翔は拳を震わせながら再びクールな態度で挑んで、彼女達を門から追い払おうと思った。



「…何で俺があんた達に名前を教えなきゃいけないんだ。俺らは赤の他人だろ?」

「クルちゃんったら、冷たぁ~い。さっきはあんなに沢山コミュニケーションを図ってくれたのに」


「……は?俺は『頼むからいい加減帰ってくれないか。忙しいんだ』としか言ってねーし」

「ねぇ、クルちゃん。お友達が来たらどこに遊びに行く?カラオケ?ボーリング?」


「ちょっと待て!あんた達はさっきから俺の話を聞いてただろ?俺はあんた達の事を知りもしないのに、行かねーっつーの!」

「クルちゃんったらぁ、いつもそんなに怒りっぽいの?殻に閉じこもってばかりいないでそろそろ心を開こうよ。ウチらならいつでもウェルカムだよ」


「あーっ!何だよ、うるさいな。頼むからもう帰ってくれよ」



今はっきりとわかった。
俺は呪われている……。

あー言えばこー言う。
こー言えばあー言う。

どうでもいい質問を繰り返す三人組に何度も何度も冷たくあしらったのに……。



しかし、残念ながら何だかんだ言っても最終的にはクルちゃんと呼ばれて返事をしてしまっている自分もいた。



……さっきは、果報は寝て待てと言ってたな。

寝るな!
いい加減に起きろ!
夢ばかり見てるからロクな事が起こらないんだ。




自在に弄び始めた三人組に苦しめられ続けている俺は、いつしか本物の(くる)ちゃんに。

いや、実は散々俺の髪型で話題を繰り広げたこいつらの方が、本物の(くる)ちゃんなのかもしれない。



そんな冗談はどうでもいい。
正直、こいつらに相手にされたくない。

でも、本来の目的を達成するまでは場を離れられないので、どんな嫌がらせを受けてもここは俺が我慢するしかない。