校門の前で10分以上も理玖の帰りを待ち続けている翔の隣には、先ほどの三人組が帰ろうとせずに横一列に並んで雑談をしていた。
その姿は誰がどう見ても翔のツレのよう。
「頼むからいい加減帰ってくれないか。忙しいんだ」
この言葉は30秒に一度。
つまり、10分間で20回以上言った。
だが、この三人組は都合の悪い事に耳を貸さない。
何か楽しそうな事が待ち構えていると思っているのだろうか。
初対面のはずが彼女達は粘る。
同じ言葉をオウムのように繰り返しても無駄に思えてしまい、これ以上の面倒を避ける為に三人組に背中を向けた。
午前授業という絶好のチャンスを無駄にしたくない。
どうしても今日中に理玖を捕まえて話をすると、三日前から決めていた。
すると、背後でブツブツと雑談を繰り返している三人組のうちの一人が、突然一回り大きい声を上げた。
「ねー、クルちゃん。これから、どんなお友達が来るの?ねぇねぇ、早く遊びに行こうよ」
「……」
「ねぇ、クルちゃん!」
「……」
「ねぇ、ねえ…クルちゃんってばぁ!」
彼女の呼びかけに仲間は反応しない。
三人組のリーダー格の女は何故かしびれを切らしたまま、壁のように背中を向けている俺の正面に周ってきた。
見上げるその表情は、明らかに不満を募らせている。
俺は彼女の瞳を見て思った。
もしかして、さっきからしつこく繰り返された問いかけは、まさかと思うけど…。
クルちゃんって、俺の事?
…いや、違うだろ。
マルチーズのような小型犬につけるような愛らしいネーミングを、来年成人を迎える俺につける訳がない。