奴は下心が丸見えだな。
まさか、失態をバネにしてあれこれ強要するのが奴の魅力なのか?

…まさか、違うだろ。
天地がひっくり返ってもあり得ないよな。



翔は不測の事態に陥り顔を引きつらせつつも、一度襟を正した後、再び二人からはぐれないように足早に後を追った。



すると、理玖はすかさずニヤリと企むように微笑んで、再び愛里紗の顔を覗き込んだ。



「チューをおねだりする為に話した訳じゃねーよ。でも、傷付いた心は簡単に修復はしねぇから。だから、チューゥ」



と言って、理玖は再び愛里紗の方に唇を突き出した。

しつこく繰り返されるキスのおねだりを耳にして既に意識が朦朧し始めた翔は、自動販売機の裏で頭を抱えた。



シツコイ。
お前は一度キスを断られてんだろ…。



愛里紗に迷惑をかけまいと思い口に出せないひとことを心の中で叫んでいる翔の拳は、もう血が滲み出そうなほど強く握られている。



「地元の駅周辺でチューなんて有り得ないでしょ!誰かにこの会話が聞かれたらどーすんのよっ」

「別にいいじゃん、俺達付き合ってんだし。早くチューゥ」


「バカバカ!こんなところで堂々と唇を私に近付けないでよ」



愛里紗達は仲良くじゃれ合いながら駅から街の方へと離れて行った。