「一年…、いや二年以上は続いていた。彼女は部活にも入らずに中学校の制服のままここに来ていたんじゃ。『谷崎くんは街に戻って来ないからもう諦めなさい』と横から声をかけても、『谷崎くんは必ずここに戻って来るから諦めないよ』と言って、君の事を健気に待ち続けていたんじゃ。愛里紗ちゃんは芯の強い子じゃのぅ」



翔はおじいさんの話を最後まで聞き終えると、言葉を失わせた。



空虚感や喪失感は自分だけじゃない。
あいつも同じ。
空白だった時間は互いを思う気持ちで埋め尽くされていた。

だから俺は、彼女との未来に小さな期待を寄せた。



「おじいさん、俺…」

「自分を信じなさい。後悔しないようにじっくり考えるのじゃ。愛里紗ちゃんは君の心を救ってくれた大切な恩人なんじゃろ?」



おじいさんはそう言うと、優しい表情のままゆっくり立ち上がって本殿の方へと向かって行った。




俺はゆっくり雲が進む空を見上げて、今と昔の愛里紗との事をボンヤリ思い浮かべる。



今日ここに来て正解だった。
おじいさんが空白を埋めてくれたお陰で、透明だった時間は少しずつ色で塗り重ねられ始めた。





でも、俺は当時の愛里紗の気持ちを知る事が出来たけど、あれから四年十ヶ月経った今はどんな気持ちなんだろう……。

笑顔が消えるほど一人寂しく待ち続けていてくれたとはいえ、一緒に過ごした時間よりも過ぎ行く時間の方が明らかに長かったから余計そう思った。