おじいさんは俯いて口を黙らせている翔に、引っ越し直後から空白だったあの当時の話を始めた。



「君が街から姿を消してから、愛里紗ちゃんは一日も休まずにここへ来ておったのぅ」

「……あいつが?」


「あぁ、そうじゃ。雨の日も風の日も雪の日も……。あの子はいつも泣き腫らした目のまま君との再会を願ってた。会えないとわかっていながらも、毎日……毎日……。本殿の軒下で目を擦りながら震わせていた背中が印象的だった。どうやら、君との別れに踏ん切りがつかなかったようじゃ」



翔は当時の愛里紗の姿を思い描きながら、次々と明かされていく真相に耳を傾けた。



翔を恋しがるかのように涙を浮かべていた事。

賽銭箱に小銭を入れて、両手を揃えながら神様に翔がこの街に戻って来るようにお願いしていた事。

翔がいつ戻ってきてもすぐに会えるように、日没を知らせるチャイムが鳴るギリギリの時間まで神社で待っていた事。

思い出がたっぷり詰まった池を愛おしそうに見つめていた事。


…そして、引越しの日を境に愛里紗の笑顔が消えた事。