翔はゆっくり目を開くと、ポケットに手を突っ込んで愛里紗とお揃いにしているイルカのストラップを手に取り池の方へ歩く。


風で水面が揺れている池の手前にしゃがみ込むと、池の中を軽く覗き込んで自分の姿を水面に映した。

だが、不思議な事に池の中に映し出されたのは、高二現在の自分の姿ではなくて、顔を真っ赤にしながら腫れた目で涙を流している愛里紗の姿だった。






ーー小学校の卒業式を終えた日の午後。

両親が離婚した俺は、母と一緒に長年住み慣れた街から出て行く予定だった。


引っ越しが嫌だったから、頑なに拒んで家から逃げ出して愛里紗と二人きりで神社の裏に身を潜めた。

暗く静まり返った頃、俺達を心配して探していた親に見つかってからは、二人の仲を引き裂くように車の中に押し込まれた。


『離れたくない』と泣きわめく声が、大人には届かなかった。
引っ越したあの日までは、俺と彼女の気持ちは確実に一つだった。