ーー先日、不意に訪れた父親から励ましの言葉を受け取った翔は、彷徨い続けている気持ちを一旦整理をする為に昔暮らしていた街の神社を訪れた。



自宅から二時間半近くかかるこの神社は、翔にとって神聖な場所。

小学生時代は池のコイに餌をあげたり、掃除をしたり。
翔からすると、自宅以上に安息出来る場でもあった。


途中から転校生の愛里紗が加わり、一緒に過ごすようになってからは代わりがきかないほど幸せな場所に。





先日神社に訪れた時は、もう日が落ち始めていたから暗くて辺りの様子はよく見えなかったけど……。

土曜日の昼間のいま境内を軽く見回してみたけど、五年近く経った今も昔とほとんど変わっていない。
思わずホッと胸を撫で下ろす。


愛里紗と再会してからも、自分の気持ちはあの頃と変わらず一寸の揺るぎもない。
彼女を抱きしめた時にドキドキと高鳴っていた鼓動は、彼女をしっかり覚えていた。



翔は鳥居をくぐり抜けて参道を通って境内の中心に立つと、空を見上げてからゆっくりと目を閉じた。



目を瞑れば…。
自然と笑顔の彼女が思い浮かび。

息を吸えば…。
当時の楽しかった思い出が次々と蘇ってくる。

耳を澄ませば…。
当時の二人の笑い声が聞こえたような気がした。




この神社には、彼女との思い出がギッシリ詰まっている。
せめて、ここにいる間だけでもいいから身体中で彼女を感じていたい。







…本当は、今日も彼女に会いたくて。

気持ちを整理するとか言いながらも、実はここに彼女がいるかもと期待を寄せていたのかもしれない。


偶然ばかりが度重なる訳でもないのに……。