腕時計はブランドとかそーゆーものではなくて、その辺に売ってるようなありきたりのもの。

それでも、誕生日を覚えていてくれた父さんから数年ぶりにプレゼントを受け取れたという喜びが、ブランド以上の価値を感じていた。

思わぬサプライズに感極まってしまい、鼻の奥がツンと刺激される。



「大事な息子の誕生日を忘れる親なんていない」

「父さんが会いに来ただけでも驚いたのに、誕生日プレゼントまで…」


「来年成人式を迎えたら、母さんと三人で一緒に家族写真を撮ろう」

「えっ……」



俺は意外な提案に驚き、丸く見開いた目を向けた。



「成人式まで残り一年。父さんはこれから一年かけて家族写真を撮れるように母さんにお願いし続ける。…お前を探し出すのは遅くなってしまったけど、父親としての務めを果たしてやりたい。父さん達は離婚をしたけど、愛されて育った子の証として成人の門出を見届けてあげたいんだ」



俺はその言葉を受け取った瞬間、感銘を受けた。
即答する余裕が欲しかったけど、残念な事に震えた口元からは次の言葉が出てこなかった。



「……その約束を破ったら、もう二度と父さんの事を許さないから」

「翔……ありがとう…。離れていてもお前の父さんには変わりないから、何かあったらすぐ相談するんだぞ」



そう言った父さんは、目元を潤ませて最後の最後まで俺の父さんらしくいてくれた。



最初は、今さら何で俺の前に現れたんだって怒声を浴びせて突っぱねていたけど……。
別れ際には、俺に会いにきてくれてありがとう…って、正直に思った。