俺は咲ちゃんからの情報だけを頼りにしていただけでなく、離別した父親の気持ちも知ろうとしなかった。

自分の耳だけを頼りに、父さんはこういう人なんだと決めつけて嫌悪感を抱き、真相を追求するまでに至らなかった。


身体はもう大人に近付いているのに、心は身体ほど追い付いていない。
だから、父さんに言った。



「俺、一人で悩んでいたからずっと答えが見い出せなかった。彼女に会えない不安から会える喜びに変わって。……でも、気付いたらその場で足踏みしている自分がいた。……そうだよな、父さんの言う通り。幸せの価値は自分で見出していかなきゃダメだよな」

「お前ならしっかりしてるから、後悔しない人生を送れるはずだ。女手一つで育ててくれた母さんに感謝しないとな。今日はお前の姿を見れて安心したよ」


「…父さんは、いま幸せ?」

「あぁ、幸せだよ。娘の成長を見守る毎日がとても幸せなんだ。お前の事は昔と変わらず大切に思っているけど、娘も同じくらい愛している。…だから、父さんの代わりに母さんを頼むよ」



父さんはそう言って、ほっこりとした笑みを浮かべた。
再会したばかりの情けない姿はもうそこにない。