しかし、父親は苦い経験を乗り越えてきたからこそ言える言葉があった。



「複雑な事情が絡んでるとは言え、彼女と目と目を合わせて真摯に向き合ってみたのか?」

「えっ……。あ、いや……まだ……」


「父さんみたいに逆転が見込めないならまだしも、お前にはまだチャンスがある。未来を切り拓くのも、幸せの価値を見いだすのも、結局は自分次第なんだよ」

「自分……次第…?」


「そう。お前の気持ちが後ろ向きだったら、見ようとしていたものは更に見えなくなる。もし、その恋に諦めがつかないのなら本気でぶつかってみたらどうかな」

「父さん……」


「お前には父さんみたいに後悔する人生を送って欲しくない。いつまで経ってもお前は大事な息子だからな」







ーー俺は数年ぶりに父さんからアドバイスを受け取った。

『未来を切り拓くのも自分次第、幸せの価値を見いだすのも自分次第』だと。
父さんは、愛里紗との恋に後悔しないように背中を押してくれた。




長い間離れて暮らしていても、父さんはやっぱり俺の父さん。

新しい家庭を持っても、別々に暮らす息子を未だに気にかけていてくれて。

俺が傷付かないように……。

そして、自分の足でしっかり前を向いて生きていけるように、心を支え続けていてくれる。