ーー父さんと再会してからおよそ三時間。

時間と共にわだかまりは少しずつ解消されていた。
お互いの気持ちが落ち着いた頃、父さんは聞いた。



「母さんは元気?」

「元気だよ。相変わらず肩と腰が悲鳴を上げてるみたいだけど」


「ははっ…。母さんは相変わらずなんだな」



父親はそう言って懐かしく遠い目をする。
まだ一緒に暮らしていた頃の母の姿を思い描いているのだろうか。



「翔は、いま幸せかい?」



父さんは離れて暮らしていてもやっぱり俺の父親。
俺と母さんの身体の心配だけでなく、今の生活が気になるようだ。



「どうかな…。さっき父さんは母さんを失ってから、幸せだった事に気付いたって言ってたよな?」

「あぁ」


「自分が幸せだったと思うのは、まだ父さん達が離婚する前。父さん達が喧嘩をしていても、あの頃は幸せだった。それは、父さんが身近にいただけじゃなくて、ある人が俺の心の支えになっていたから」

「そのある人とは…?」


「その人はいつも傍にいてくれて、天使のような温かい笑顔を持っていた。昼飯代を握り締めている俺に歪な形のおにぎりを握ってくれたんだけど、そのおにぎりがしょっぱいんだけど世界一ウマくて…」

「へぇ」


「泣いたり…、笑ったり。コロコロと表情変化して忙しい奴だった。隣で見ているだけでも顔がほころんでしまうと言うか…。なんだろうな。

引っ越し後に何通か手紙を送ったんだけど、彼女から返事は来なかった。手紙の返事を待ちわびていた自分に気付いた時、俺は既に幸せを手放していた事に気付いた。引っ越す前までは彼女が俺の心の支えになっていてくれたから幸せだったんだなってね」



別に父さんを責める為に言った訳じゃない。
ただ、色褪せる事のない思い出が胸に刻み込まれているから、気付いた時には口から溢れていた。