でも、気付いたのは遅いかもしれないけど、俺と母さんを愛していたという事実だけは心を掴んで離さなかった。




別れ言葉さえ交わせなかった俺と、約五年越しに向き合う覚悟を決めて現れた父さん。
涙を堪えるように飲み続けていたコーヒーは、自分達の姿が窓にクッキリ映し出されるようになった頃には空っぽに。



「翔、迷惑かけたね。辛かったろうに……。多感な時期に傍にいてやれなくて悪かった。父さんが道を誤らなければ、今でも三人で幸せに暮らしてたかもしれないのに」


「…迷惑かけてんじゃねーよ。俺は父さんが一番の理解者だった。だから、父さんに会えなくなってからは、誰にも自分の想いを伝える相手がいなかった。父さん達が離婚した瞬間、俺は育んできたものを全て失った」


「翔……、大事にしてやれなくて悪かった。謝る事さえ遅くなってしまって本当にすまない」



と言って、父さんは頭を深々と下げて瞳からはポタポタと溜め込んでいた涙を滴らせた。


その姿は、まるで先日咲ちゃんとの交際に終止符を打ったあの時の自分のようだったから。

罪の大きさは人それぞれかもしれないけど、俺は父さんと同じく人を傷つけるという罪を犯してしまったから。