父さんは言いようが無いくらい身勝手で。
納得いくような話じゃないし、無性に腹が立つし、汚ないなって思うけど……。
精一杯子育てをしてくれた記憶が並行すると、もどかしい気持ちになった。
「残念ながら、新しい命を一から一人で育てていくのは難しい。お前ならしっかりしてるし、母さんを任せられると思ったから離婚を選んだんだ」
「何だよそれ……」
「あの時の事を未だに後悔してる。過ちに気付いた時にはもう取り返しがつかなかった。子供が間違いを犯すように、大人でも間違いを犯してしまう事もある。幸せっていうのは目に見えるものじゃないから……」
父さんは弱々しく反省し、顔を伏せて情けない姿を俺に見せた。
気分は最悪。
父さんが道を外さなければ、俺は他の家庭を羨む事なく、今でも家族三人で幸せに暮らしていたかもしれないのに。
俺は悔しさがこみ上げるあまり、テーブルの下の握り拳に圧を加えた。
「……許せねぇよ。俺は自慢の父さんを失ってから、生きてんだか死んでんだか分からない人生を送ってきたんだよ。人生の大事な時期に気持ちをぶつける相手を失って過ごしたんだ」
「ごめん…、大事な時期に傍に居てやれなくて。でも、父さん自身も幸せだったと気付いたのは、母さんを失ってからだった。あの時は母さんに嫌われる為にわざと厳しい態度を取った。そうしないと、母さんは父さんと別れられなくなるから」
「なんだよ、それ……。勝手すぎる。俺は二人の怒鳴り声を聞いて、怖くていつも身体を震わせながら耳を塞いで過ごしてた。母さんに嫌われる為って、何だよ……」
「お前も母さんも心から愛してた。だから、これ以上の苦痛を味あわせたくなかった。自分勝手だが、母さんとお前の幸せを願っていた。母さんは悪くないのに傷付けてしまったから、きっと街から姿を消してしまったんだろうな……」
母さんは父さんの事を愛していて。
父さんも母さんの事を愛していた。
それを知ったのは、離婚をしてから五年近く経ったいま。
父さんの浮気は多分一生許せないけど、俺は捨てられたと思い込んでいた分、誤解が解けて少し楽になった。