「子供が大きくなったから会いにきた」

「子供って……?」


「…そうか。母さんから聞いていなかったんだな。実はお前に腹違いの妹がいる」

「えっ……」


「もうすぐ五歳になる。可愛い年頃でね。父さんは相手の女性との間に命が授かったから、母さんと離婚したんだ」

「……そーゆー事だったのか。喧嘩話の内容からすると、単に父さんの浮気だと思ってた」



離婚の真相を聞いた瞬間、ショックを受けた。

父さんは、新しい命の誕生と共に俺の知らない人達と家族として新生活を続けているのだから。



「あの頃は大切なものを見失なっていた。相手との間に赤ちゃんが授かったと知った時は、母さんとお前の顔が思い浮かんで後悔したよ」

「………」


「でも、そこで思い出したんだ。お前が母さんのお腹に命が宿った時の事を…。母さんから嬉しそうにお腹のエコー写真を見せられた時、父さんは子供が授かったという実感は湧かなかった。日に日に大きくなっていくお腹。そして、お腹の中で力強く動き回るお前を1番近くで見守っていたからこそ、新しい命を捨てる事が出来なかった」

「父さん……」


「生まれたての頃は毎日寝てばかり。あどけなくて、頼りなくて、守ってやりたくて。…でも、日を追うごとに小さな顔で一生懸命笑って、おもちゃのような小さな手で指を握りしめてきたり、寝返りを打ったり、ハイハイしたり、時には転びそうになりながら歩き始めたり。次第におしゃべりや身の回りの事が一人で色々出来るようになってきて。毎日成長していく様子を実感していたよ。


ある日、会社に行こうとすると、まだ歩きたてのお前は玄関から外に行かないでくれと訴えるように、スーツを掴んだままワーッと泣くんだ。あんなに小さくても、父さんはお前の大事な人なんだって痛感したよ。


お前の成長を見守ってきたからこそ、新しい小さな命を大切にしようと思った。あの時は全て父さんが悪かったんだ」



父親はそう言い、伏せ目のまま両手でコーヒーカップを握りしめた。