「母さんはな……母さんは、父さんが怒鳴り散らして家を出て行く日はいつも泣いていた。気が強くていつも負けん気なあの母さんがな。


俺は父さん達がケンカしている声を聞きたくなくて、いつも両耳を塞いでいた。朝から晩まで働き詰めの母さんに迷惑かけまいと思って、文句一つも言わずに空っぽの家に一人取り残されても我慢する生活を続けていたんだ。


俺がどんな気持ちで家に閉じこもっていたか、笑顔で家族の話を始める友達がどれだけ羨ましいと思った事か、一度でも考えた事があるのかよ!」

「翔……、すまない」



「すまないじゃねーよ。父さん達が離婚したせいで、友達との絆や大切な人を失ってんだよ。それもこれも全部浮気をした父さんのせいだ!


それなのに、よく会いに来れるな。俺は親の恋愛ゲームに付き合わされただけ。捨てられた子以上の意識は無いし、俺の中ではもう父親なんて存在してないから」



俺は膿のように溜まっていた気持ちを吐き出した。
本当は叩きつけた言葉以上に心が崩壊している。



両親の不仲から始まった悲劇のストーリー。
失うものはあっても得るものはなかった。
突然姿を現した挙句にあの時の話を蒸し返されても、今の俺は突っぱねる事しか出来ない。