最後に目にしたあの日から比べると、父親は白髪が少し増えて頬が痩せ細り、シワが深く刻まれていた。
両親が離婚する前。
俺は自宅で両親が喧嘩している声を聞きたくなくて両手で耳を塞いでいた。
でも、嫌でも互いの怒鳴り声が耳に入る。
内容からして父さんは俺と母さんを捨てて他の女を選んで家を出て行ったと認識していた。
俺はずっと父さんの事が好きだったのに、父さんは他の女を選んで幼い俺を捨てた。
でも、また何処かで父さんに会えると期待して信じていた年月は、離れ離れになって会わない年月に押しつぶされていく。
次第に全く会いに来ない父さんに裏切られたような気になり、いつしか憎くて腹を立てるように。
翔は無言のまま父親の前を素通りする。
「翔っ………。翔っ………」
「……」
父親がしきりに翔の名前を呼んでも、翔は冷たい背中を向けたままで振り向こうとしない。
だが、父親は翔の態度は想定内であった。