ーー本格的な厳しい寒さを迎え、身にまとうコートやマフラーや手袋が手放せなくなっていた、一月中旬のある日。


学校は下校時刻を迎え、翔は身支度を終えてから校門へ向かうと……。

校門より十メートルほど手前で、自分を待ち構えている人物に気付く。
温かみのある眼差しを向けてきたその人物は、数年ぶりに翔の前に姿を現した。



その人物とは、白髪混じりの黒髪にスラリと長身でスーツ姿の中年の男性。
五年前に幼い自分を捨てて家を出て行った父親だった。



離婚と共に翔を引き取った母親は、まるで父親の記憶をかき消すかのように住み慣れた街を捨てて新天地へ。

一方で母親から連絡を絶たれてしまっていた父親は、翔が通う学校を探し出して話をする為に遥々遠い街からやって来た。




最後に父親に会ったのは、両親が離婚する直前。

『お父さんとはもう二度と会えなくなるからね』…と、母が泣き崩れながら言っていた少し前が最後の別れとなっていた。

だから、互いに別れの言葉は伝えていない。


俺はまたすぐにでも会えると信じていたけど、引っ越した事もあってその夢は現実味帯びる事なく消え去った。