すると咲の母親は、愛里紗の姿を目にした瞬間、足を止めて憂に満ちたままの表情を向けた。



「おい、落ち着けよ」

「落ち着いてられないよ。咲の容態が気になってしょうがないの」



若干フライング気味の愛里紗は木村と小競り合いをしていると、母親は愛里紗達に言った。



「愛里紗ちゃん…と、咲のお友達くん。咲の心配をして来てくれたのね。ありがとう。咲は軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしていたみたい。あとは軽い打撲と捻挫程度だから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「でも、私が咲を階段の上から押したから咲はっ……」

「だから、さっきから違うって言ってるだろ!駒井の転落原因はお前じゃねえって」


「おばさんもね、学校の先生から詳しく事情を聞いたの。おばさんが直接その現場を見た訳じゃないけど、お友達くんが言う通り、愛里紗ちゃんが咲を押したとは思えないわ」

「でっ…でも……」


「だって、愛里紗ちゃんは誰よりも咲を大事にしてくれてる。おばさんにはちゃんと伝わってるわ。……だから、自分を責めないでもう帰りなさい。咲なら大丈夫だし、いま眠ってる。また連絡するから」



咲の母親はそう言い、愛里紗達に家に帰るように促した。