木村はショックのあまりに肩を落とす愛里紗の腕を引いて、正面の椅子に座らせた。
愛里紗は木村が二つ隣の椅子に座る音を聞き取った後、床をぼんやり見つめたままボソッと呟いた。
「先生からこの病院に搬送されたって聞いたのにね。証拠のメモだってあるのに」
「搬送されてない訳じゃないから、暫く待ってれば駒井の家族が来るかもな。もしかしたら、手違いで名簿に名前が反映されていないだけかもしれない」
「木村」
「ん?」
「咲……、見つかるかな」
「お前が信じてやれば見つかるかもな。……ほら、お前のスマホ貸して」
「なんで?」
「もう15時20分過ぎたし、これから長丁場になるかもしれないから、代わりにお前んちに電話しとく。駒井に会うまで待つんだろ?お前は駒井の家族が来るのを待ってろ」
「……木村って、いい奴」
愛里紗はスマホ画面に自宅の電話帳を映し出して木村に連絡を託した。
「……やめろよ。じゃあ、行ってくるから」
木村は少し照れ臭そうにスマホを握りしめて病院の自動ドアを出て行った。
木村は咲の事だけでも目一杯なのに、咲の親友の私にまで気にかけてくれる。
知らなかったよ…。
木村は強さと弱さ、そして優しくて気遣い上手な一面を兼ね備えていたんだね。