木村は愛里紗の気持ちを落ち着かせる為に、事故状況を伝え始めた。
「お前は自分の手元しか見てないかもしれないけど、俺はこの目で一部始終見ていたんだ。確かに、お前は駒井の手を振り払ったけど、駒井は階段手前ですでに足をひねっていて体勢を崩してたんだ」
「嘘っ……。そんなの信じられない」
「しっかりしろ。あれは不慮の事故だから自分を責めるな。転落原因はお前じゃない。あの時はお前が何をしなくても駒井は階段から落ちていたんだ」
木村はパニック状態で自らを責め狂う愛里紗を擁護するが、愛里紗は素直に聞き入れられない。
ただ、自己嫌悪に陥るだけ……。
それから間もなく第一発見者の木村は学年主任に呼ばれ、事故当時の状況の説明の為に応接室へ。
私は興奮状態に陥って過呼吸になっていたせいか、養護教諭に連れられて保健室に到着した後は、呼吸を整える為の紙袋が渡された。
……でも、使わなかった。
気が滅入っていてそれどころじゃない。
自分の事なんて後回しでもいいし、どうでもいい。
今は小さな配慮ですら煩わしく思っていた。