愛里紗は震えている口元に冷たい指先を当てた。



3秒間……。

それは、足に根が生えていた時間。



信じられない気持ちと、受け入れ難い現実が交錯する。
親友なら一刻でも早く安否を確認しなきゃいけないのに、思うように身体が動かない。



ーーしかし、次の瞬間。

大きな人影と風が隣を過ぎった。



「駒井っ………」



彼は騒々しくバタバタと足音を立てて、手すりにつかまりながら階段を一段飛ばしで駆け下りると、踊り場に横たわる咲の元へまっしぐらに向かった。



動揺するあまり何も出来ずに佇んでいる私よりも先に駆けつけた人物。


その人は、去年私達と同じクラスで。

咲に彼氏がいる事も知らずに一年以上もアピールをし続けていて。

ノートや教科書を借りに来て、返却時にイチゴ味の飴をお礼に添えて。

期末テスト前には、咲の大事なノートを返し忘れちゃうくらいおっちょこちょいで。

ビックリするくらい恋愛下手で、ひたすら咲の事だけを想い続けている、あの木村だった。




木村は女子トイレ付近で二人の異変に気付き、先行きが気になって遠目から様子を見ていた。