「愛里紗、待って…」
階段にさしかかると、咲は愛里紗の肘を掴んで足を引き止めた。
「私が悪かった。愛里紗と話せない間、ずっと後悔してた。確かに私が愛里紗でも許さなかったと思う。救いようがないくらい傷付けちゃったのは百も承知。虫がいい話かもしれないけど、仲直りしたいよ」
謝罪言葉を繰り返す咲の頬は涙でびしょ濡れだが、愛里紗は許す気がない。
「簡単に許せると思ってる?一番の親友に裏切られたんだよ。アルバムを見せた時に谷崎くんの事を明かしてくれれば何も問題にはならなかった」
「私も自分が何で素直に言えなかったんだろうって後悔した。でも、一度エンジンがかかったら止まらなくなったの。どうしても手に入れたい。他の人には取られたくないって思うのが恋でしょ。私は真剣に恋して、ぶつかって、玉砕して、またぶつかって。この繰り返しがどれだけ辛い事か……」
「じゃあ、家庭の事情で無惨にも引き離されてしまった私は可哀想じゃないとでも言うの?」
「それは……」
「あの頃はまだ幼かったけど、精一杯恋してた。楽しみにしていた手紙を母親に隠されている事も知らずに健気に手紙の到着を待ち続けてた。谷崎くんに会えたら第一声は何て言おうかって。どんな服を来て会おうかって。期待していた気持ちが、現実を見る度に悲しみの嵐に巻き込まれていた」
「……」
「咲にとっては小学生の恋愛程度としか思わないかもしれないけど、私にとって谷崎くんは人生そのものだった。一生分の甘酸っぱい恋を若干十二歳で経験していたんだよ。谷崎くんの事が忘れられなくて、あの時以上の幸せな恋愛なんて出来なかった。咲は私の気持ちを理解してないクセに、思い出を軽々しくあしらわないでよ」
「私…、そんなつもりじゃなかった。初めて愛里紗の気持ちを聞いたあの日は、翔くんが取られてしまうと思って怖かった。でも、愛里紗の恋は過去だって割り切る自分もいて。どうしたらいいかわからなくて……」
「咲は勝手過ぎる。話し合う価値なんてない。……もうついて来ないで」
「愛里紗……」
「二度と話しかけないで。学校内で私を見かけても無視して」
「嫌だよ。以前の関係に戻りたい。愛里紗と仲直りしたい。私には愛里紗しかいないの」
「もう、嫌! 都合の良い事を並べられても、咲なんて大嫌いなんだからぁ!」
と、愛里紗は怒りに満ちた表情で怒声を浴びせながら咲の手を勢いよく振りほどいた瞬間……。