愛里紗は少しやつれた顔をしながら古い消印の手紙を差し出して、手紙を全て読んでないと言い涙を浮かべた。

その瞬間、心の居場所はやっぱり愛里紗だと痛感する。





小六当時、俺が学校を休んだ時に愛里紗が家に来て握ってくれた丸型のおにぎり。

あの時は、無心になって(むさぼ)った。


温かくて、
柔らかくて、
美味しくて。


冷えきった家庭環境に飯代だけ握らされていた幼き俺。


こんなに旨い飯が食えるのはいつ以来だろうって。
愛情がこもったものを口にするのは随分久しぶりだなって。

そう思いながら食べていたら、米を噛みしめる度に涙が溢れてきた。



恋の味は忘れられない。



神社で久しぶりに愛里紗の顔を見たら、昔の思い出が溢れかえってきた。
……と同時に、咲ちゃんとの別れを決断した。

その理由は、自分の気持ちに正直になりたかったから。






翔は自宅の学習机で、愛里紗とお揃いのイルカのストラップを指に絡めながら愛里紗の事を考えていた。


しかし、以前咲が嬉しそうに話題に挙げていたある事を思い出すと、翔はハッと目を開かせる。


そのある事とは、交際当初から聞き続けていた《親友》の話。
咲はいざという時の保険として、親友に彼氏がいるという事を先に明かしていた。


翔はつい最近咲の親友が愛里紗と気付いたばかり。
恋人の存在に気付かされると、愛里紗との未来に新たな障害がつきまとい始めた。