ーー大晦日前日。

翔はイタリアンレストランの勤務終了後に、同日シフトに入っている従業員一同と向かい合わせになって最後のお別れの挨拶を告げて深々と頭を下げた。



「今日でここを辞める事にしました。今までありがとうございました」

「残念ね。今井くんが辞めちゃうと女性客が減っちゃいそうね」



女性マネージャーは翔の退職に残念そうにフッとため息をつく。
翔と慣れ親しんだ従業員一同も、最後のお別れに寂しげな表情を浮かべて翔を労う。

同日、シフトに入っている咲は、輪の中に入りながらも翔に声をかけるどころか顔を上げる事すら出来ない。



咲は別れに納得していないが、もう何をしても翔の心は動じる事がないと確信しているので、ただ傍で話を聞く事しか出来なかった。