ガバッ………


「谷崎くんっっ!」



悲鳴のように彼の名前を叫んだ直後、興奮状態のまま勢いよくベッドから起き上がった。



夢の延長線上で消えてしまった彼を探すように辺りをキョロキョロと見回したけど…。
目の前の光景は普段と何一つ変わらない高校生現在の自分の部屋。



「また……、あの夢か」



徐々に頭が回転していくと、先ほどまで見ていた光景が夢だと判明する。
現実に戻るとため息混じりで肩を落とした。



また、あの夢を見ていた。

何度も繰り返される、小学六年生の頃の彼とお別れをする夢。
特にラストシーンがリアルに蘇っている。



夢と現実が判別できないほど、当時の事を鮮明に覚えている。
夢を見た時は再び彼に会えるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。



夢でも彼に会えて嬉しい。
何度も同じ夢を見るという事は、初恋に終わりを告げていないのかもしれない。



……いや、まさかね。

あれからもう何年も経っているのに、まだ恋心を抱いてるだなんて…。
きっと彼も私の事なんて忘れて、新天地で新生活をスタートさせているに違いない。



愛里紗はうなだれながら目を擦ってベッドから立ち上がると、部屋の扉を開けて洗面所に向かった。







私達は別れを惜しみながら引き離されるような別れ方をしたけど、あの時約束していた手紙は未だに届いていない。

きっと、部活や勉強など新生活に忙しい日々を迎えしまったせいで、手紙の事なんて忘れてしまったのだろう。


だから、彼が今どこに住んでいるのか、元気に過ごしているのか、私の事を覚えているかなど、彼に関する情報が入ってこない。