咲は今のままでは確実に翔が離れていくと思い、詰め寄る態度を一変させる。
「今まで言ってなかったけど…。私、もう一人ぼっちなの。迷惑かけちゃうかなと思って黙ってて……。最近、身の回りで色々ありすぎて…、疲れていて…、我慢していて…、精神的に参っていて……」
「………」
彼に三度目の告白した、あの日。
親の不仲で心を痛めている自分の拠り所として傍に居て欲しいと、弱い自分を曝け出した。
彼は同じ様な境遇を経験してきたから、誰よりも心境を理解してくれたようで、寄り添う事を決めてくれた。
今回も同じ手口で自分でも惨めだなぁと思うけど……。
あの頃と一つ違うのは、彼が後ろを向いたまま反応を示さない事。
うんともすんとも言わない。
だから、もう無駄な遠回りは辞めて今の思いをストレートに告げた。
「私には寄り添いどころが翔くんしかないの。離れていかないで…」
ここまでは、よくあるストーリー。
別れ間際に相手の弱点を突いて心を惑わす汚い方法。
だけど、言った事は嘘じゃない。
今は崩壊した家族の悩みで胸を痛めている上に、親友の愛里紗も失ってしまったのだから。
大切なものが指の隙間から次々と零れ落ちていき、手元に残されているのは僅かな希望だけ。
もう、これ以上何一つ手放す訳にはいかなかった。