家に上がろうとして玄関床に目を向けると、そこには男性用シューズが揃えられていた。
そのシューズは父親のものではなく、少し見覚えがある。



「部屋に理玖くんが来てるから早く行ってあげて。ずっとあんたの帰りを待っていたから」



そう…。
足元に置いてあるのは理玖のシューズ。
デートをすっぽかした挙句、一日以上連絡を絶っている私を心配して来てくれたのだろう。



時計の針は20時過ぎを指している。
未だに待ち続けているという事は、一体いつ頃から待っていたのだろうか。






愛里紗は二階に上がり、部屋の扉を開けると……。

正面のベッドに座っている理玖は、太ももに肘杖ついて口元に両手を当て、見たこともないような険しい表情で待ち構えていた。



理玖は愛里紗の帰宅に気付くと、上目遣いで目線を合わせる。
その瞬間、愛里紗は罪悪感により胸がチクッと痛む。



穏便な性格の理玖でも、デートをすっぽかした上に丸一日中音信不通だった私を怒ってるに違いない。



ーーそう思ったのも束の間。



理玖はベッドから立ち上がって愛里紗の手を引くと、冷え切った身体を両腕で包み込むように抱きしめた。


ガバッ……


ぴったりと隙間なく重なった身体。
お互いの鼓動が伝わりそうなほど、理玖の腕は力強い。



「……っ…良かったぁ…。お前の身が無事で」

「……えっ」


「事件や事故に巻き込まれてたらどうしようかと思ってた」

「理玖……」



理玖は約束をすっぽかして音信不通だった事に怒ってた訳じゃない。
帰宅が遅い私の身を案じていた。