愛里紗はコートのポケットから二通目の手紙を取り出して、翔の前に両手を伸ばして見せた。



「…遅くなったけど、昨日手紙を受け取ったばかりなの。だから、一通目しか封を開けてなくて…。まだ全部読めてない」



愛里紗は手紙の内容を思い出したらやりきれなくなり、瞳に溜まっている涙をグッと堪えようとして大きく息を吸い込んだ。

だが、フーッと息をゆっくり吐き出した途端、緊張が解れたかのように大粒の涙がポロポロと頬を伝った。





小学校の卒業アルバムを見せた瞬間から咲に裏切られて。


翔くんと別れて落ち込んでいる私が可哀想だからという理由で母に手紙を隠されて。


小学生時代から友達のノグには、私よりも咲との約束を優先されられた。




どんなに辛くても、苦しくても…。
立ち上がろうとする度に叩き落とされて。


それが、二度も三度も続いて…。


精神力や気力が消え失せてしまっても、私は前を向く以外自分を守る方法がなくて。

度重なる障害に向き合う度に気持ちが張り詰めっぱなしだったせいか、既に心の限界を迎えていた。



池のように瞳に溜まった涙が邪魔して、翔くんの顔がよく見えない。
彼の姿をこの目に映す日をどれだけ楽しみにしていた事か……。


まだ、涙は残っていたんだね。
昨日から沢山流したから、もうすっかり干上がっていたと思っていたのに…。








でも…、何で今なの。


お別れをしたあの日から翔くんとの恋を引きずり続けて。

泣いて、
泣いて、
泣いて……。

それでも時は進んで、周りの環境が変わって、新しい出会いがあって。


私自身も前に進まなきゃいけないって自分に言い聞かせていて。


ようやく頑張ろうって。
これからは、新しい景色を目に映して行こうって。


不器用に重たい足取りで第一歩を踏み出したばかりだったのに……。




翔くんに会いたかったのは今じゃない。
今さら目の前に現れても、もう遅いんだよ……。