だが、翔の母親は愛里紗とは対照的に穏やかな目を向ける。
「愛里紗ちゃん。今まで翔と仲良くしてくれて本当にありがとう。感謝してる」
愛里紗は願いが届いてないと判明すると、再び興奮気味に詰め寄った。
「おばさんっ…………。ダメだよ。感謝の言葉なんて要らない。行かないで!谷崎くんと別れたくない!」
「愛里紗!谷崎さんに無理を言うのはやめなさい」
前のめりでお願いする愛里紗と、愛里紗を引き止める母親。
車窓を叩いたり後部座席の扉をガタガタ揺らす翔。
そして、軽く会釈した後に運転席に乗り込む翔の母親。
愛里紗と翔の願いは届かず、別れの準備は着々と進められていた。
違う…。
おばさんから聞きたいのは感謝の言葉じゃない。
最後の挨拶なんて聞きたくないよ…。
愛里紗は話をまともに取り合ってもらえない状況に悔し涙を流した。