ーー愛里紗はノグの家に到着。


ノグは、玄関先で血色が悪いまま泣き腫らした顔で幽霊のように立つ愛里紗を見るなり、目を丸くして驚いた。



「何かあったの?唇真っ青だよ。…どうしたの…その格好。…泣いてたの?」

「……ノグ、ごめん。ここしか行き場が見つからなくて」


「とりあえず家に上がって。一旦落ち着いてから話を聞くから」



愛里紗を温かく迎えたノグは自分の部屋に通した後、愛里紗の背中に毛布をかけてキッチンから温かい飲み物を持って来た。


マグカップに入ったココアを口先でフゥフゥと冷ましながら、つめたく冷え切った身体に少しずつ温もりを浸透させていく。


毛布にくるまり体温の上昇とココアの甘さで気持ちが安定しつつあった愛里紗は、心配の眼差しを向けるノグにここに来るまでの経緯を話した。



「母親も一人の人間なんだよ。大事な一人娘のあんたが苦しんでいて心配だから、手紙を隠したんだよ。少しは母親の気持ちも理解してあげないと」



…そう。
ノグの言う通り。

本当は自分でもよく分かってる。
お母さんは単に私を心配していただけ。


でも、翔くんからの手紙を隠した事がどうしても許せない。
手紙の件は、私に迷惑をかけただけじゃなくて、返事を待ち望んでいる翔くんにも迷惑がかかってるというのに……。



「今日はうちに泊まってゆっくり休みな」



ノグの計らいによって、愛里紗は家に泊めてもらう事になり、ノグの母親は愛里紗の帰りを待つ母親へと連絡した。





もう疲れた……。
今日はノグの家で、これ以上何も考えずにゆっくり休もう。



愛里紗は今日一日で精神的に参って疲れ切ってしまったせいで、途中まで覚えていた理玖とのデートをすっぽかした上に、謝罪の連絡を忘れてしまった。