「実は卒業を機に引っ越す事になりまして。愛里紗ちゃんには本当に仲良くしていただいたみたいで……。今日までお世話になりました」

「そうでしたか。こちらこそ、娘と仲良くしてくれてありがとうございました」



いま私達が想像していた最悪なパターンが目の前で展開されている。
さっきまで長時間隠れていた事が無意味だったかのように…。





話を終えた翔の母親が運転席に向かっている瞬間、愛里紗は翔の母親へと駆け寄り腕にしがみついた。



「ダメ…………。おばさんっ、一生のお願いだから引っ越さないで」



愛里紗は気が狂ったかのように大粒の涙を流しながら懇願する。
すると、愛里紗の母親はすかさず間に入った。



「愛里紗!谷崎さんに迷惑かかるからやめなさい」

「谷崎くんを他の街に連れて行かないで!離れ離れになりたくないの!ずっと一緒にいたいの……」


「ほら、谷崎さんから手を離しなさい」

「おばさん、行っちゃダメ!谷崎くんと一緒にこの街に残って。一生に一度のお願いだから……」



今ならまだ間に合うと思って気持ちを吐露(とろ)した。



私はこの瞬間に全てを賭けている。
翔くんの代わりに私が気持ちを届ければ、おばさんは思いとどまってくれると思っていたから…。