『俺は三月下旬から名字が谷崎から今井になったよ。いまは今井として新しい街で頑張ってる。まだ名字に慣れなくて出欠の時に名前を呼ばれてもピンと来なくて、危うく欠席扱いされそうになったよ。』

「そうだよね。生まれてからずっと谷崎だったからね」



『今は三鷹大平町という街で母さんと二人で暮らしてる。ここは漁港が近いせいか、ちょっと田舎くさい街だよ。』

「あはは。…そうなんだ」



まるで返事をするかのように、懐かしい目で過去に届いた手紙に向かって呟き始めた。



『俺が引っ越してから、毎日お前が泣いてるんじゃないかって心配してる。』

「何でわかったの?…私の事をよく知ってるんだね」


『最近桜が散り始めたのに、お前がプレゼントしてくれた手袋を毎日部屋の中で着けてるよ。ウケるだろ。』

「ううん、手袋を大事にしてくれてありがとう」



手紙を読んでる最中、私宛の手紙を一生懸命書いている彼の姿が目に浮かんだ。

そう思うだけで、目頭があっと言う間に熱くなり、意思とは関係なく涙が溢れてきた。