翔の母親は3分も経たぬ間に三人の元へと駆けつけた。
母親は翔の目の前に立つなり、目を釣り上げながら勢いよく右手を振り上げる。
「あんたって子は、みんなに心配かけてっ…」
ビシッ……
「…………っ」
母親は抱きしめるどころか、翔の左頬を強く叩いた。
衝撃音は雨音でかき消される事なく付近に響き渡る。
翔は左頬を片手で押さえて不服そうに黙り込んだ。
「家を勝手に出て行ったと思ったら、江東さんにまで迷惑かけて…。こんな夜遅くまで歩き回って、万が一愛里紗ちゃんに何かあったらどうするつもりだったの!」
すると、翔は鬼の形相の母親をキッと睨みつけた。
「自分勝手は母さんだろ!俺の気持ちなんてちっとも考えてない。俺の気持ちを一度でも聞いた事があるかよ」
「生意気言って!これ以上江東さんに迷惑をかける訳にいかないから、とりあえず家に帰るわよ」
「嫌だっ……、離せよ。何処にも行きたくない。俺は二度と帰らないからな」
「翔!いい加減にしなさい」
翔は反抗的な態度を見せるが、母親の力には敵わない。
母親はなかなか言うことを聞かない翔の腕を強引に引っ張って、神社の脇に停めている車の後部座席に押し込んだ。
不機嫌な手つきで車の扉を閉めると、翔はガタガタとして扉を開けようとするが、チャイルドロックがかかっていて扉が開かない。
母親は扉前から愛里紗達に挨拶を始める。
「江東さんに何とお詫びをしたらいいのか…。翔が大変なご迷惑をお掛けしました」
翔の母親は謙虚な態度で申し訳なさそうに愛里紗の母親に深々と頭を下げた。
「うちの娘こそ、一緒に隠れ回ってしまって……。ご心配ご迷惑をおかけしました」
愛里紗の母親も、今回の騒ぎに加担してしまった娘の非を伝えると、翔の母親に深々と頭を下げた。