ーー何かが壊れていく音がした。
『聞いて、あのね………。彼がいま付き合ってる人なの』
『名前は今井翔くん。私が中学生の頃から好きな人』
あの時は、咲が谷崎くんを意図的に紹介してきたなんて思いもしなかった。
てっきり彼氏自慢でも始めたかと思う程度で…。
でも、実際は谷崎くんとの関係を遮断させる為。
自分の恋を守り抜く為に私の過去を犠牲にした。
正直者が馬鹿を見るというけれど、今の自分はまさにソレ。
残念ながら、簡単に許せる問題じゃない。
顔面蒼白のまま愛里紗の後ろを追いかける咲。
中庭から校舎に入り、廊下を一気に駆け抜けていく。
お互い荒く息を切らしているが、足を止めずに等間隔で走り続ける。
「ハァッ……ハァッ……待って……愛里紗…。ハァッ……お願いだから」
届かぬ手を精一杯伸ばしても。
身体中の力を振り絞って全速力で走っても。
名前を大声で発して声で引き止めようとしても……。
結局、愛里紗に追い付く事が出来なかった。