「愛里紗、谷崎くん。ここにいたのね………。良かった。…暗くなっても帰って来ないから心配したじゃない」



母親は数本の傘と懐中電灯を落とすと、本殿の軒下で発見したばかりの愛里紗を両手いっぱいに抱きしめた。

愛里紗は母親の冷たい身体に包まれると、罪悪感に駆られていく。



お母さんが泣いている姿を見たのは、今日が初めて。
心配が重なっていたせいか、息が出来なくなるほど力強く抱きしめている。



私はいま十二年間の人生の中で大恋愛を経験している。
これが恋だと実感できるほどに…。
自分を犠牲にしても構わないと思うほど彼の気持ちに寄り添ってあげたかった。



「お母さん、ごめんなさい…」



愛里紗は母親の心配が伝わると、堪えていた涙が流れ出た。





母親は持参した傘を拾ってそれぞれ二人に渡してから、同じく周辺を探し回っている翔の母親に電話をかけた。

その間、愛里紗達はお別れの時間が刻々と迫っている事を実感して互いの手をぎゅっと握りしめる。